序文

憲法学とは、國のあり方を定める憲法について考究する学問です。従って、憲法学の使命の一つとは、必然的に國を守り、保つことであるといわねばなりません。

この『憲法学概説』では、英米保守思想の父として知られ、英国議会下院議員を務めたエドマンド・バーク(Edmund Burke 1729〜1797)などの保守思想に立脚した、真に國を守り、保つための憲法学の定立を目指していきます。

以下は、拙ブログに初めてこの『憲法学概説』を公表したときの序文です。


かなり以前、このブログを始めたころのことですが、「保守思想入門」というシリーズを続けていたことがありました。
この度は、もう少し専門的に、しかし、出来るだけ分かりやすい形で、「保守思想とは何か」について迫ってみたいと思い、このシリーズを始めます。この「保守思想概説」を始めるきっかけについて、お話したいと思います。
今、我が國に於いて、今までになく占領憲法(日本国憲法)についての議論が盛り上がりを見せつつあり、占領憲法を見直すことについて、私は非常な期待を持っています。
ただし、占領憲法を見直すに当たっては、そもそもの大前提として、憲法学の知識や知見が不可欠なことはいうまでもありません。
しかしながら、残念なことに、現在の我が國の憲法学界に於いては、左翼思想(理性万能思想)に由来する理念が、無謬の、所与の大前提として、金科玉条の如く信奉され、用いられています。天皇主権や、国民(人民)主権、基本的人権、平等主義、民主主義、などの理念がそれです。
確かに、これらの理念を、解釈で以って緩和し、中和して用いることも不可能ではないことは確かです。しかし、それはあくまでも一つの解釈に過ぎないのであって、今現在、判例や政府見解などで採用されているような緩和された、中和された解釈を覆し、これらの理念の原理主義的な意味で解釈することも勿論、可能です。というよりも、元来はその意味であったわけですから、そちらの方が正当な解釈である、とさえいえてしまうでしょう。

「概説」などというタイトルから、とても専門的でとっつきにくいイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。確かに、このシリーズは、真正面から左翼憲法学を排撃し、保守思想憲法学を定立することを意図しておりますので、専門的であることは確かです。
しかし、専門的であることは、難解であることを意味しません。専門的でありつつ、同時に出来るだけ分かりやすいものを目指していきます。このシリーズをご覧になれば、保守思想、またはそれに基づく正統の憲法学をマスターできます。ぜひ、ご期待下さい。

明治維新以降、我が國の政治制度や法体系は、西欧諸国で形成されたそれを取り入れてきました。
これは、我が國が、国際社会に於いて伍していく為に仕方なかった、ということでありますが、そこで取り扱われる対象は、日本の社会とそこで暮らす我々です。
保守思想憲法学に於いても、取り扱われる対象は同じですが、我が國を真に守る、という観点からすれば、従来の憲法学で取り扱われてきたような、我が國の独自性を度外視し過ぎたようなものは不適切ということになります。つまり、歴史や伝統などを考慮し、國学というものを内実に組み立てていく必要があります。
ただし、我が國を含めた現代社会に於ける政治制度や法体系との整合という観点からすれば、これまで西欧諸国に於いて形成されてきた学問体系に従う必要があります。これに従いつつ、そこに、國学などに於いて考究されてきた我が國の歴史や伝統などを入れ込むことになります。
しかし、現代の我が國に於いて採用されている法体系とは、フランスやドイツなどの法治主義・人定法主義による法体系です。この法体系によるならば、我が國の歴史や伝統などを内実とする保守思想憲法学の構築は、殆ど無理があるといえます。
そこで、西欧諸国に於いて形成されてきた政治制度や法体系などと整合させつつ、我が國の歴史や伝統などを内実とする保守思想憲法学を構築するには、英米保守思想に於いて形成されてきた法の支配・立憲主義による法体系を採用せねばなりません。
これからお話する保守思想憲法学とは、このように、我が國の歴史や伝統などの國體を内実とすることの可能な、いわば入れ物としての保守思想憲法学です。